神奈川県の未病への取り組みと今後の展望《前編》

2024年の調査*では全国的に元気な人が減少する中、最も減少率が低かった神奈川県。
神奈川県では、健康と病気の間を分けるのではなくグラデーションの「未病」という考え方に注目しています。
未病産業の創出と、健康と医療の連続性、個人の行動変容の重要性。
「未病」に取り組む神奈川県の政策と今後の展望について、神奈川県政策局 いのち・未来戦略本部室 未病産業担当部長の牧野義之さんにお話を伺いました。

*ココロの体力測定 2024
有職者におけるコロナ前後の健康状況を比較 働くシニア世代で元気な人が大きく減少 未病に取り組む神奈川県では減少率が最も少ない結果に
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000045.000085299.html

《後編》を読む

神奈川県の未病への取り組み

―当協会の調査で、全国的に元気な人が減少する中、神奈川県が最も減少率が低いという結果が出ました。本日は神奈川県の未病への取り組みについてお伺いいたします。

神奈川県の未病の政策は、具体的な数値や医療費の抑制というよりも超高齢社会を乗り越える政策潮流として取り組んできたところですが、一方で、これまでの未病の取り組みが結果として数値に表れたと思われる事例が確認できたことは大変嬉しい話です。
神奈川県では高齢化社会への対策の一つとして「未病の改善」に取り組んでいます。医療は悪いところを治すことが主目的ですが、未病は体、心、脳のバランスを整え、健康を維持すること、本来ここまで悪くなったかもしれないところを少しでも改善できることなどにも重点を置いています。未病として大切にしているのは、生活習慣、生活機能、認知機能、メンタルヘルス・ストレスの4領域です。これらの有望な解決ツールとして睡眠、休養を重要視しておりますので、今回の調査で示された「元気な人と休養の関係」に関するデータが得られたことは、非常に喜ばしいことです。

―神奈川県が未病に注力する背景について教えてください。

我々の抱える課題は二つあります。一つは国際産業競争力の低下です。バブル崩壊以降の30年間で、日本の産業競争力は低下しており、資源がない日本では科学技術力、自動車産業に代わる基幹産業の創出が求められます。神奈川県では、川崎市殿町などを中心に再生細胞医療、湘南地域などを中心に、未病にかかわる分野に取り組んでいます。
もう一つは高齢化です。高齢者を価値ある人材として活用する社会、そして健康長寿社会を目指しています。高齢化社会へ対策の一環としても「未病の改善」に取り組んでいます。人生100歳社会の中で価値ある人材、誰もがその人らしく「いのち輝く」ということを掲げています。今はまさにその社会構造の変化の過渡期です。日本は、いち早く超高齢化社会へと突入しますが、逆にこれに対応した社会が作れれば、世界の中で先駆的なモデルが作れるのではないかと思っています。

神奈川県の特徴と「ヘルスケア・ニューフロンティア」

―神奈川県の未病への取り組みの特徴について教えてください。

神奈川県の大きな特徴として、科学技術政策に30年以上取り組んできたという点があります。1970年代から、重厚長大産業から知識集約型産業へのシフトを目指し、科学技術を推進してきました。その取り組んできた歴史の中で、昨今、「ヘルスケア・ニューフロンティア」というプロジェクトを展開しています。これは最先端医療・最新技術の追求と未病の改善を融合させ、新産業創出と健康寿命延伸、そして新しい未来社会の創造を目指すものです。

―「ヘルスケア・ニューフロンティア」の最先端研究では、どのような取り組みを行っているのですか?

例えば、再生医療や医療機器を組み合わせた新規治療の提供、創薬プラットフォームにゲノム構築などの最先端技術を用いるなどの取り組みを行っています。これにより、今まで治らなかった病気に対する根治治療の提供を目指しています。

未病の概念とその重要性

―未病とは具体的にどのような概念なのでしょうか?

未病は、健康と病気の間の状態をグラデーションで捉え日々変化するという考えです。医療が特定の疾患を治療することに焦点を当てるのに対し、未病は体と心と脳の全体のバランスを維持し、また機能を維持・改善することなどを大切にしています。例えば、生活習慣病の糖尿病で言えば、病気としての治療と生活習慣の改善等の未病の取組の両方が大切であることを理解し、ライフスタイルやセルフコントロールの取組を主体的かつ持続的に取り組むことが重要です。

―未病の改善にはどのようなアプローチが必要ですか?

これまでは、健康に関する一般的な見解として、健康と病気の二元論的な見解及び病気になったら医療等の専門的サポートを受ける、というようなやや受動的な側面がありました。国民皆保険という中で、行政が仕組みを作り、専門家が診断をして医療提供し誰もが医療提供を受けられる、という流れが根底にあります。これはこれで素晴らしい仕組みなのですが、超高齢社会に突入するこれからは、それだけでは済まない時代となります。今後は、各人が自分の健康などを自分事化し、未病の改善に関する取組をもっと能動的に行動していく必要があります。高齢化社会において医療リソースの提供が追いつかなくなるという現実的な話ありますし、ライフスタイルや個人の様々な特性に合わせて、自分の体と心と脳に関することについて、可能なことは、自分達で決める、選んでいく、取り組んでいく、そんな時代になってきています。

神奈川県全域での未病対策活動

―神奈川県全域での未病対策活動について教えてください。

神奈川県では、KSP(※1)や殿町、理研横浜、湘南地域を科学技術イノベーション拠点として位置づけ、この拠点がけん引役となって新産業を創出・育成する施策を進めています。これらを含めた神奈川県全域を国家戦略特区として指定し、科学技術による新しい社会づくりを推進しています。

―特区としての取り組みにはどのような意義がありますか?

特区としての取り組みは、神奈川の先駆性のシンボルであり、地域全体の還元を考えたものといえます。神奈川県全域を特区にすることで、企業や大学との連携を強化し、新しい商品やサービスの開発を促進するとともに、地域の特性やニーズを活かした産業や技術の実証及び地域展開が進みやすくなります。

―神奈川県の地域特性についても教えてください。

神奈川県は、日本の縮図とも言える多様な地域特性を持っています。海や山、都市と自然が共存する環境があり、新しい取り組みがしやすい地域文化があります。その中でも、湘南地域などは、県の中央部に位置し、開放的な雰囲気もあり、新しいことへの挑戦が地域文化として根付いている気がしています。あくまでも地域イメージの一つですが、京浜臨海部中心に新しい技術が生まれ、県西部の豊かな自然などがある中で、湘南地域などの県中央部で最先端技術の追求と未病の改善が融合していく、未来社会創りをしていく、そんな期待を持っています。

※1 KSP かながわサイエンスパーク
https://www.ksp.or.jp/

この記事のリカバリ用語

  1. 慢性疲労症候群

  2. 日本疲労学会