「慢性疲労症候群」をご存知ですか? さまざまなストレスがきっかけとなって、ある日突然、全身が原因不明の激しい倦怠感・強度の疲労感などに襲われ、健全な社会生活が送れなくなるという疾患です。
日本における疲労の本格的医学研究がどのように発展してきたのか、日本疲労学会の理事長であり、疲労研究を最前線で推進する、理化学研究所生命機能科学センターの渡辺恭良さんにお話をうかがいました。
日本における疲労研究の始まりとは 《 前編 》
その始まりは、ネバダ州でのある集団発生から
日常の中で多くの人が感じている「疲労」。その本格的な医学研究は、「慢性疲労症候群」という病を診断・治療しようという臨床研究が契機となって盛んになってきました。その発端となったのは、アメリカで起こった、ある不可解なできごとです。
1984年、アメリカ・ネバダ州のインクラインという村で、非常に多くの人が寝たきりになって働きに出られないという原因不明の集団発生が起こりました。昨今のコロナ禍で知られるようになった米国疾病対策センター(CDC)は、ようやくエイズウイルス(HIV)のことがわかりかけてきた頃だったため「これは新しいウィルス感染疾患なのではないか」と見込み、原因ウィルスの発見に向かいました。そこで研究の対象となる症例を明確にするため、1988年に慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome, CFS)の診断基準を作成。これが後に、世界的に広く使われるようになる慢性疲労症候群(CFS)の診断基準となりました。
現在は、単なる疲労の延長でない病気ということで、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)という名称が、日本も含めて、世界的な病名として認知されてきています。
日本では1991年に慢性疲労症候群の症例第一号が
その頃日本では、大阪大学医学部の微生物病研究センターいらした木谷照夫教授と、一緒に研究されていた倉恒弘彦講師によりCFSの診断基準に照らし合わせた症例の第一号が報告がされます。それが日本におけるCFS研究の最初です。
1991年には木谷先生を班長とした旧厚生省の疲労調査班が発足し、そこに日本有数のウィルス学者たちも加わりました。私たちは、脳科学から発熱・睡眠・脳免疫炎症疾患を研究していたのでその観点から加わって共同研究がスタートしました。